あふれるほどの愛を君に
「用があってさ、サトシのとこで少し飲んできたんだ」
なんとなく言い訳がましいって自分でも思った。
こんなに自覚してるんだから、サクラさんはどんなふうに聞こえたかなんて想像したくない。どんな顔してるのかだって直視できない。
でも星野は気づいてないだろう。
一見平静を装ってるようで、まったくそんなことはないってこと。いつものサクラさんじゃない。
「お名前、教えてください」
僕ではなく、真っ直ぐサクラさんを見て言った星野。
「だって、“彼女さん”じゃ言いずらいもん」
今度は僕を見上げて微笑む。
さっきまでとは違う顔。
切なく顔を歪め、感情をぶつけてきた表情とは全然違う。
でもそんな顔を向けられたって、どんな顔をしたらいいんだろう。
笑い返すなんてできない、ただ戸惑い見返すだけ……。
その時、ずっと無口だったサクラさんが口を開いた。
「花井桜といいます。せっかくなんですが、私はここで失礼させてください……あの、ごめんなさい、明日早いので」
言い終わるのと同時に背中を向けたサクラさん。すぐにこの場から離れたい――そんな感じだった。
一瞬見えた横顔に、ギュっと心臓が握り潰されるような、そんな痛みを覚えた。