あふれるほどの愛を君に
迷った。
すぐにサクラさんの後を追いたい。でも、星野を一人残していいのか……。
「ごめん、今日は送れない」
僅かな葛藤の後そう告げると、ずっとにこやかだった表情が一瞬で曇った。
「ホントごめん」
「待ってよ!」
突然、星野が勢いよく僕の腕にしがみついてきて、その力の強さに驚いた。
幼い子供がイヤイヤをするように首を振る。明るい色をしたショートヘアが無造作に揺れた。
「家まで送って」
両腕をしっかりと巻きつけ、じっと見上げてくる。
「…それはできないよ」
「お願い、阿久津君!」
そっと横目でサクラさんが去って行ったほうへ視線を走らせる。
細いシルエットが、雑居ビルの角を曲がるのが見えた。