あふれるほどの愛を君に

「あの、聞いてもいいですか?」


一度席を立った桃子さんが戻るのを待って、口を開いた。


「なによ?」


コトンと目の前にお茶の入ったグラスが置かれ、眉根を寄せた訝しげな顔が向けられる。


「サクラさんの婚約者だった人って、どんな人だったのかなって……」


問いかけると桃子さんは、ちょっと驚いたようだった。
そして、少し考えてから答えてくれた。


「そうねえ……19世紀のロボット、みたいな感じ?」


そう言って、おどけたような表情で僕を見るけど、そのよくわからない例えに、どんな反応をしたらいいかわからず首を傾げた。

桃子さんは続ける。


「感情がないみたいなイメージね。綺麗な花を見て美しいと思ったり、映画を観て感動したり、悲しんでいる人間に同情したり……そういう心がなかったわ、あの堅物野郎には。いまどきのロボットの方がよっぽど人間味あるわよ」


その人は、国立大出で有名な商社勤務の所謂“エリート”であることも、桃子さんと実さんが前に会話していたので知っていた。

なんとなく人物像を想像して、サクラさんを思い浮かべた。

< 146 / 156 >

この作品をシェア

pagetop