あふれるほどの愛を君に

それから約二時間後。


「今日はウチに泊まらせますって電話してきたわ」


スマホを片手にリビングに戻ってきたサクラさんが、ソファを見下ろし溜め息をついた。

そこで寝息を立てているのは桃子さん。


「やっぱり夫婦喧嘩だった?」

「それが旦那さんもわかんないって。仕事から帰ったらすでに居なかったらしいの。またマタニティブルーなんじゃないの」


と呆れ顔で「それにしても不思議ね」っていつもの台詞を呟いた。

不思議というのは、つい数ヶ月まで ”一生私は独身でいる!” と豪語してた桃子さんが今では結婚し、妊娠中だということ。

そういえば僕とサクラさんが付き合い始めた頃もよく言ってたよね。

結婚なんて人生の墓場だとか、そんなもののために一生を棒に振りたくないって。

そんな女性が海外旅行に行った時に、ツアーコンダクターに一目惚れをして猛アタックの末に授かり婚をしたんだから、サクラさんが首を捻るのもわかるかな。

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