あふれるほどの愛を君に
「じゃ、そろそろ帰るね」
僕は、フローリングの床に手をついて立ち上がった。
玄関先まで見送りに出てくれた彼女が軽く身震いをする。
「サクラさんは部屋に入ってよ。風邪ひかせちゃいけないから」
すると彼女はクスリと笑った。
「なに?」
「ううん、ハルはやっぱり優しいなって。こんな時、”風邪ひくよ” じゃなくって ”ひかせちゃいけない” って言うでしょ」
だって、それは大事だから。
「わざとらしくなく、自然にそういう言葉や行動をいつも示してくれるから」
何より君が大切だから。
「そういうとこも全部……好きっ」
そう告げてくれたサクラさんの瞳はやっぱり潤んでいて、僕は胸の熱を感じながら彼女のほうへ腕を伸ばした。
夜風から逃れるように細い身体を抱きしめて──そして、そっと唇を合わせた。