あふれるほどの愛を君に

「悪かったな」

「そんな、いいですよ」


顔の前で手を合わせる鈴木さんに笑い返す。


「そういや、うちの社長も元々は高卒だったって知ってたか?」


そんな言葉に顔をあげた。


「実は苦労人らしくてさ、高校は働きながら夜学に通って大学も通信制だったみたいだぞ」


どこにもそんな経歴は出ていなかったから知らなかった。


「すげえよなー。俺なんて当たり前のように親に金出してもらって、大学の時なんて遊びまくりだったからなぁ……。だからそういう人間見るとさ、なんか底力みたいな秘めたもん感じて怯みそうになるよ。例えそれが後輩でもさ」


それから鈴木さんは小さく苦笑して「さて」と立ち上がった。


「恐るべき後輩の底力に負けないように、働くとするか!」


その後僕達は、それぞれ取引先を訪問するため最寄り駅で別れた。

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