あふれるほどの愛を君に
「ダメ!」
「え」
後数センチ、いや数ミリで唇と唇が触れ合おうとした次の瞬間、すっと体を遠ざけたサクラさんを見て、僕はあんぐりと口を開けた。
そこへサクラさんが追い討ちをかけるように言う。
「いまキスしちゃったら帰りたくなくなるもの。だからしない!」
それならいっそ、帰らなきゃいいのに……なんて思うのと同時に、そんな可愛いことをなんの計算もないような顔で言っちゃう彼女をまた抱きしめたくなる。
でもサクラさんは、そんな僕の心におあずけをしたまま帰り支度を整えて
「もう行くね」
ニッコリと微笑み、軽やかな足取りで玄関へ向かった。