あふれるほどの愛を君に
「覚えてるに決まってるじゃない。だってわたしは阿久津君の――」
無意識に右手が動いていた。
言いかけた彼女の前に広げた掌を下ろすと、星野の口から小さく「ごめんね」ともれて。
「いや、こっちこそ」慌てて僕も付け足した。
「あ、そうだ! もうっ、やだなーわたしったら」
戸惑いを隠せない表情から一変して、バツが悪そうに肩をすくめ、短く舌を出した星野。
「バースデープレゼント忘れてきちゃった」
「プレゼント?」
「せっかく用意したのになあー。あ、また言われちゃうね。相変わらずだな、そういうとこって」
さっきの気まずい表情から、彼女らしい明るい笑顔に変わる。
コロコロと笑う顔を見て、そっと心の中で胸を撫で下ろした。
「プレゼントなんて、そんないいのに」
「そんなこと言わないの! わたし達、友達でしょ?」
「…うん」
その後、仕事中のくせに自分用のジョッキを持ってきたサトシも加わり、思い出話に花を咲かせ合った僕たちは、楽しい夜を過ごした。