あふれるほどの愛を君に
「んじゃーね、ミツキもまたおいでよ」
暖簾の下でポケットに手をつっこんで立っているサトシに手を振って、僕たちは店を後にした。
それから繁華街を抜け、しばらく歩いたところで立ち止まった星野が、僕を振り返り言った。
「わたし、ここに寄ってくから、阿久津君は先に帰っていいよ」
深夜営業もしている書店の前だった。
ここから駅へ向かうには、人通りの少ない道を通らなければならない。女の子の一人歩きは危険だと思った。
「星野が嫌じゃなきゃ付きあうよ。その後で送ってく」
僕の申し出に笑って頷いた星野と並んで自動ドアを抜ける。
星野が向かったコーナーは、意外な場所だった。
「参考書?」
いくつかを手に取り、その中の数冊を胸に抱えた彼女に訊ねた。
「わたしね今、大学の通信教育やってるんだ」
会計へ向かいながら答えた彼女は、どこか誇らしげな笑顔を浮かべた。