my existence sense-神が人を愛す時-









彼等は世界が壊れたあの運命の日に産まれた赤子。
世界にたった五人だけ。
それは偶然か必然か、それは判らぬが人は彼等を運命の子―――女神の使者だと崇め奉った。


世界が壊れた日。
絶対的であったはずの女神の力が揺らいだ日。


そんな日に産声を上げた彼等は女神の持っていた不思議な力の一部を受け継ぎ産まれてきた。

勿論、全知全能であったはずの女神には到底及ばない。
受け継いだのはその力のほんの欠片で不完全で未完成。

だが、人は彼等を神とした。
赤子である彼等には拒否権など無い。彼等の意思は無い。
生まれながらにして無理矢理に神という型に宛がわれた。
人として産まれたはずの彼等は女神を無くして絶望した人々によって神に仕立て上げられた。








ジーナは鉱山が聳え立つ辺境に生まれ、石や鉱石に愛でられその力を自在に操ることが出来た。

ネモフィラは緑に潤う森の中で生まれ、花や緑に愛でられその力を自在に操ることが出来た。

リヴァイアは辺りを水に囲まれた小さな小さな島で生まれ、水に愛でられその力を自在に操ることが出来た。

サハラは渇いた大地が広がる砂漠地帯に生まれ、砂に愛でられその力を自在に操ることが出来た。

.........。
そしてそんな五神の最後の一人―――エルドレは豊かにどこまでも広がる草原の地で生まれ、世界を颯爽と自由に吹き抜ける風に愛でられその力を自在に操ることが出来た。






五人は一人の女神の代わり。
彼等は今まで女神がたった一人きりで背負ってきた重荷を彼女の代わりに背負わされた。





女神の手から離れた世界は自らの意思を持ち、その行く道は人には到底想像し得ない。

齎される恩恵と災い。
人々は行く先の判らぬ世界を前に、一層"神"という特別な存在に依存するようになっていった。


願い祈り、そして縋る。

全ては神の意思。
全ての責任を神という存在に背負わせて、自分達は責任と重荷から逃れた。
再生の途中である半壊した世界。
人は縋ることで辛い現実から目を背け心を保った。









.........。

だけれど限界がある。
運命の子と呼ばれ崇められようとも女神の使者と敬われようとも、所詮は人の子。
五人とはいえ、女神にさえも耐えられなかったその重荷に耐え切れるはずも無い。

神として世界に打ち立てられたった数年。
彼等五神の心は崩壊する寸前まで追いやられた。




神としての責任。
人々の全幅の信頼と願い。
幾ら人々に神として敬われようとも人である性からは逃れられない。
.........。
心が壊れてしまうその寸前、神と呼ばれた五人の人は世界から退いた女神に再びの祈りを捧げた。








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