my existence sense-神が人を愛す時-
「さぁて、と」
前を向き直る彼女。
目の前にはスッと奥まで続く一本の道。
その奥に行く程に異質な感じが濃くなっているように思えた。
この先に、何かがある。
女の勘.......盗賊である彼女の勘がそう告げていた。
ニタッ。
お宝の手応えを感じて思わず口元が歪む。
先程抱いた不安は何処へやら、彼女の目は爛々と輝いていた。
そして逸る気持ちを抑えながら一歩前へと踏み出した。
カツンッ。カツンッ。
.........。
.................。
「.............何よ、これ」
暫く進むと視界が拓けた。
此処がどうやら終着地点らしい。
異質な空気に何が待ち構えているかと思えば、随分とあっさりしたものである。
ッ。
そしてそんな拓けた空間のその真ん中ににポツリ、小さな台座があり何かが置いてあるのが見える。
待望のお宝か。
いや、だがそれは彼女が想像していたような金銀財宝とは随分と違うということが遠目から見ても分かった。
「ちょっと.......待ってよ待ってよ、お宝ってまさかこれぇっ!?
やーん、それは無いでしょそれは!
これだけ勿体振って置いてこんな古本一冊なんてぇ!」
台座の上に在ったのは一冊の古本。ただそれだけ。
表紙には埃が降り積もり文字も読み取れない。
厚みはそこそこ。
とてもお宝には見えない。
パッ。
文字を読もうと表紙を手で払う。
舞い上がる埃。
少しの間その埃で空気が濁る。
「ゴホゴホッ!
すっごい埃.......もういつからあったのよ、こんな所に」
舞い上がる埃に思わず咳き込み目を擦る。
埃が治まり視界が正常に戻る。
本へと目をやる。
するとそこには埃に隠れて見えなかった深紅の表紙。
その表紙に文字は.......捜しては見たが見当たらない。
「お宝の在処でも書いてあったら儲け物だと思ったんだけど」
パラパラパラ......ッ。
「うぅーん」
細やかな期待を胸にページを捲ってみるが今使われている文字とは違うものらしく全く読めない。
何が書いてあるのか、価値が在るのか無いのかも分からない。
近付けて見てみても遠ざけて見てみても何にも分からない。
「..........」
パタンッ。
幾ら見ても分からないものは分からない。
彼女は諦めて本を閉じてそのままそれを懐へとしまった。
取り敢えずもう此処には何も無さそうである。
まだ先程と同じように何処かに隠された道が有るのではないかと周りの壁を隈無くペタペタと触ってみたがそれらしいものも無かった。
本当に此処が最終地点なのだろう。
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