my existence sense-神が人を愛す時-







「バロンです」



自分を見つめたまま言葉に詰まる彼女にバロンはお得意の紳士的な微笑みでそう名乗る。






「あぁ......バロンか」



やはり名前を覚えられていなかったか。

そう思うと何だか悔しいが、まぁこの宴でも彼女とは自己紹介の時くらいにしか言葉を交わせていなかったので仕方が無い。








「............。

すみません、うちのジーザスさんが騒がしくしてしまって。
折角キルファさんが交友を深める為に計らってくれた宴の席なのに、全くあの人は......」



「いいや、賑やかでいい。
一人きり何も会話の無い寂しい空間よりはこうやって賑やかで人の声に溢れていて笑いのある温かい空間の方がずっといい。
こんな場は、こんな賑やかな場所に居るのはとても久しぶり」



夜の風がバルコニーにそよぐ。
宴の騒がしさから切り離された二人はそんな夜風を受けながら会話を交わす。








「ハハ......たまになら良いですけれど、僕の場合は毎日このような感じですからね」



「でもそんな毎日があるのは平和な証。
戦が絶えなかったあの時代は皆が気を張り詰めていてこのように下らない会話で笑い合うことは出来なかったはず」



「あの時代......。
確か貴女は自己紹介の時に傭兵だと仰っていましたね?
では、ノウェルさんもあの最後の戦の時には僕等と同じ戦場に?」



「..................。

あの戦の流れは今まで見てきた全ての戦と違っていた。
己の欲の為ではなく平和という一つの目的に向かって戦況を斬り拓いていくノヴェリア側は強かった。
今までも何度も何処ぞの国の愚かな王が他国との結託を図り統一を目指してきたが、その裏には最終的にいつも己の利が欲があって結局上手く纏まることはなかった。
だが先代のノヴェリア王は裏表なくただ真っ直ぐに平和な世界になることを目指しただ真っ直ぐにそれを王自らが訴え、他国を、人の心を動かした。
だからこそあれほどまでに強い結束が生まれて最後と決めたあの戦であれほどまでに大きく世界を動かした。平和を齎した」








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