大好きなのは当たり前。愛してるのは喜ばしい。~短編~
自転車

「将太さーん♪」
里奈が大きな声で将太を呼ぶと、
将太は満面の笑みで振り返った。


「なんだいハニー?」

人目もはばからずに、二人は抱き合った。

「あぁ……数学の時間……
 つらかったわ……。あなたと会えないんだもの」
「俺もだよ。
 数式が全部君の名前に見えるんだ……」

目に涙を浮かべ抱き合うこの二人は、
ブサイクなわけでもないので、見てる方が不快になることはまず無い。


「ちょ……お前等まだやってんのかよ」
「くそ!俺も彼女ができれば数式が名前に見えるのかな?
 数字に酔うこともなくなるのかなぁ」
「現実から逃げるな田中。
 こんなカップルは通常存在しない。通常」

田中と斉藤も目に涙を浮かべている。
純粋な恐れから来る涙なのか、悔し涙なのか。
それは本人たちにもわからない事だろう。

「ハニー。僕はもう限界だ。
 君の瞳は俺の理性をクラッシュアウトする」

「ダーリン……あなたになら何をされてもいいわ……」

キラキラと輝く二人の目には、相手の姿以外は何も見えていない。

二人の黒目を見ても、映っているのは相手の姿のみ。
何故か景色すらも映っていない。

「どんなトリックだよ」
冷静に突っ込む田中とは対照的に、
斉藤は興奮している。

「くぅ!羨ましいぜ!!」

「落ち着け斉藤。
 っていうか将太、クラッシュアウトの意味わかってないよな」

「くぅ羨ましいぜ。
 田中、俺はもうな。相手が男でもいい」

「……斉藤!!!!???」
「男でもいいんだ田中」

斉藤の目はギラギラと光っており、
もはや何を言っても聞かないだろう。
ヘタしたらあの二人より恐ろしい。
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