桜の樹の下【短編】
「昔、ここに2人で寝そべって桜を見上げたことがありました。」
「地面に寝て?」
「貴方が教えてくれたんです。秘密の場所なんだよって。」
「ここで、地面に寝ることが?」
「地面に寝転んで桜を見上げると、目の前に桜しか見えなくなるんです。夜空と桜だけが、目の前に広がっているんです。」
「夜空と桜。」
「自分が何処にいるのかも判らなくなっちゃうくらい、目の前が桜だけになるんです。風が吹くと夜空から桜が降ってきて…幻想的な世界に迷い込んだみたいな気分で。吸い込まれてしまいそうでどこか不安なんですけど、とにかく綺麗でした。」
「…ああ、なるほど…。」
どうして忘れていたのだろう。
目の前に一面に広がる夜空と桜。
この光景を、共に見上げた人のこと。
自分だけの秘密の、この場所のことを。
「夜桜を見に行こうって誘われた時は、下心あるみたいで嫌だったんですけど、そうやって見た桜があまりに綺麗で、ほんとに来てよかったって思っちゃって。」
「ええ。」
「そのまま朝まで一緒にいたんです。」
「………。」
「思い出してくれましたか。」
男はぼうっと空を見上げたまま、何も言わない。
女は小さな声で懇願する。
「思い出せないなんて、言わないで下さい。」
男は返事をしない。
「地面に寝て?」
「貴方が教えてくれたんです。秘密の場所なんだよって。」
「ここで、地面に寝ることが?」
「地面に寝転んで桜を見上げると、目の前に桜しか見えなくなるんです。夜空と桜だけが、目の前に広がっているんです。」
「夜空と桜。」
「自分が何処にいるのかも判らなくなっちゃうくらい、目の前が桜だけになるんです。風が吹くと夜空から桜が降ってきて…幻想的な世界に迷い込んだみたいな気分で。吸い込まれてしまいそうでどこか不安なんですけど、とにかく綺麗でした。」
「…ああ、なるほど…。」
どうして忘れていたのだろう。
目の前に一面に広がる夜空と桜。
この光景を、共に見上げた人のこと。
自分だけの秘密の、この場所のことを。
「夜桜を見に行こうって誘われた時は、下心あるみたいで嫌だったんですけど、そうやって見た桜があまりに綺麗で、ほんとに来てよかったって思っちゃって。」
「ええ。」
「そのまま朝まで一緒にいたんです。」
「………。」
「思い出してくれましたか。」
男はぼうっと空を見上げたまま、何も言わない。
女は小さな声で懇願する。
「思い出せないなんて、言わないで下さい。」
男は返事をしない。