処女作品
鯨
ゆらゆらと、水面に月が揺れる。
今日は一段と濁った海。
真っ赤、死んだ魚の血で、真っ赤。
えらに餌を詰まらせて死ぬなんて、なんてばかなんだろう。僕ならきっと生き延びるだろうに。そんな、浅ましく事切れるなんて嫌だ。
きっと明日も海は赤い。
だらりと沖に流される魚を意味も無く嗤う。
僕みたいに、えらがなければ助かったのにね、と。
僕みたいに鼻があれば良かったのにね、と。
彼は嗤う。意味も無く嗤う。
おうい、いくぞ。
遠くで音が聞こえた。
言われなくとも。
鯨はひれを泳がせた。