tender dragon Ⅱ

気づけば周りに人はいなくて、風が葉を揺らすザワザワとした音だけが辺りに響いていた。


「え…?」

立ち止まってあたしを見る春斗の目は悲しそうで、思わず目を反らした。


「美波さんがいなきゃダメなんです。」

手を握る力が強まって、いつもと違う春斗の様子に戸惑った。

「お願いします…」


戻らないと決めたはずなのに。

"美波さんがいなきゃダメなんです"

春斗の言葉に喜んでしまっている自分がいることに気がついた。


毎日が楽しくて、当たり前のように安田さんの家に帰っていた日々に戻りたくなってしまう。

戻れるのなら戻りたい。

……でももう、苦しいのはヤダよ。


「……ごめんね、春斗」

春斗の手の上から自分の手を重ね合わせた。そのとき初めて気づいた。

春斗の手、震えてる。


「もう…っ…戻りたくない…」


あそこに戻れば、きっと嫌でも希龍くんのことを思い出してしまう。

もう1ヶ月も顔を見ていないのに、いつだって想いは溢れ出してくる。

…それが辛かった。

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