tender dragon Ⅱ

「安田さんの家にカーディガン忘れてましたよ」

そう言われて、最後に安田さんの家に行った日にカーディガンを忘れて帰ったことを思い出した。


取りに行けないままで忘れていた。

カーディガンを着ない季節になってしまって、必要じゃなくなったから気づかなかった。


「安田さんがクリーニングに出してくれたみたいなんで…、行きたくないと思いますけど…」

「取りに行った方がいいんだよね。」

「すいません、俺が渡せたらいいんですけど、当分安田さんの家に行けそうにないんです。」

申し訳なさそうに謝る春斗。


「ううん、大丈夫。あ…でも葉太と安田さんがいない日の方が…」


ほんとはもう行きたくないけど、そういうわけにもいかないみたい。

だったら2人がいない日がいい。

……なるべく、以前を思い出さないような状態がいい。


「ですよね。大丈夫です、来週の火曜なら2人ともいないんで、その日に行ってください。安田さんに言って鍵開けといてもらいますから」

「…うん、ありがと」

申し訳なくなってうつ向くと、春斗の大きな手があたしの頭をポンポンと撫でる。


「何ショボくれてるんですか、行きますよ」


ポケットから出して指でクルクル回しているバイクのキーには、ブサイクなウサギのキーホルダーがついていた。

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