tender dragon Ⅱ
「…川原!」
あたしの名前を呼ぶ大きな声。
声の主は振り返らなくても分かる。
だから、聞こえてないフリをしようと思った。
「川原っ!」
それでも彼が人混みを掻き分けて、あたしの名前を必死に呼ぶから、無視することなんてできなかった。
「ごめん蒼空くん、ちょっと待ってて。」
「…分かった」
気になっていることがあるのに、どうしても無視できないのは何でだろう。
「ごめん川原、話したいことがあって…」
試合が終わって疲れてるはずなのに、あたしのところまで走ってきてくれた。
息が乱れて苦しそうだった。
「ここでいいから、聞いて。」
話したいことなんて、聞かなくても何となく想像できた。
難波くんって、分かりやすいから。
………あたしの返事も決まってた。