この空の下で風は唄う
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剣道は好きだ。
独特の緊張感とか、試合の時の相手から伝わる真剣な気迫とか。
そういうものが、素直に好きだと思える。

「これで三年生全員負かされちゃったわねぇ」

背の高い先輩が、あたしに向かって言った。
この人はさっきまであたしが試合していた先輩。
この剣道部の女子の部長…だった人。

「それでも、先輩が引退するまでに勝たせて貰えませんでした」

少し不満に思って、そう言った。
先輩は笑って、あたしの頭をかき回すようにして撫でた。

「部長としての意地とか色々あったのよ。今日からはあんたが部長なんだから、頑張りなよ。風!」

そう、今日から、あたしが部長なんだ。
本当は、リーダーシップとるのとか、得意じゃないんだけど。

「風先輩、超かっこよかったッス!!」

髪の短い、活発そうな雰囲気の女の子があたしに言った。

「ありがと、くるみ」

差し出されたタオルを受け取る。
この子は入部した当時から、熱心にあたしを慕ってくれてる後輩。
……正直、なんでかわからない。

「みんなマジ感動してたんスよ!」

くるみの視線の先には、一年生が全員、あたしのことをキラキラした目で眺めてくれてた。
あたしはそれに気づかないフリをして、防具を外した。

「さ、一年生中心に後片付け。二年生は床にモップかけて!」

キビキビとした指示。出したのはあたしじゃなく、ポニーテールが似合う、同い年の茜(あかね)。
今日から彼女が副部長。
むしろ、あたしには彼女が部長のほうが何倍も向いてると思うんだけど。

「いや、なんか悪いね、茜」

「何言ってんのよ風、アタシはあんたを支える係なんだから」

と、れたように笑う。
なんでかわかんないけど、みんなあたしを慕ってくれてる。
だから部長も引き受けた。こんなあたしでいいのなら。

「じゃ、また放課後にね。お疲れ様」

「「「お疲れ様でした!」」」

みんなの元気な声で、練習は終わった。

少しの気疲れのため息をついて、
あたしは、携帯を取り出した。
時刻は8時。

「今日はちゃんと起きれてるのかな、空は」
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