この空の下で風は唄う
「全然わかんないよ〜」

ノートを見つめて、空が悲鳴をあげる。
空の苦手分野は国語、数学……訂正、勉強全般。

「全然勉強しないんだから当たり前よ。空は将来なりたい職業とかないわけ?」

七海が空に聞いた。

「ぇ〜、およ……「お嫁さんって言うのはなしよ」

すっぱりと切り捨てられてる。

「ふぇ〜、なんでよぉ」
「考えてもみなさいよ。料理も出来ない、朝も起きれない、勉強も出来なければ、運動音痴。顔が人より可愛いだけよ。あんたなんて」

酷いことを言う七海に苦笑いして二人のやりとりを眺めた。

「可愛いなんて〜、七海ちゃんてば」

「なんでそこしか頭に入ってないのよ!」

バンと机を叩いて突っ込みをいれられている。
また、苦笑い。

「七海ちゃんは何になりたいの?」

「私は弁護士になって同じく高収入の旦那と結婚して幸せになるのよ!」

「え〜、七海ちゃんキツいから貰い手いないかもよ〜」

「あんたいちいちむかつくわ!」

あたしがぼーっと二人のやりとりを眺めていたら、七海が急にこっちを向いた。

「風は? あんたならなんでもなれるでしょ、成績いいし」

成績なら七海も良いはずだが。

「カリスマ性あるし。将来何になるの?」

…将来…。

「特にないよ。勉強も、なんとなくしてるだけで、将来のこととか考えてないし」

そう答えたら、なんだか七海は不満そうな顔をした。
そして盛大にため息をついて、あたしに語りかけるようにして言った。

「風はもっと人生に気力だしたほうがいいわよ。あんたならなろうと思えばなんにでもなれるんだから。あんたが本当に本気になるの、剣道か空関連の時だけじゃない」


今のところ、それだけであたしには十分だ。
あたしが曖昧に笑ってごまかしたところで、HRが始まるチャイムが鳴った。
みんなが席に戻って、あたしは密かにほっとした。

本当に、今がずっと続けばいいのに。
将来を夢見るなんて、今はまだ出来そうにないから。

懸命にノートを書き写している、空をちらりと見つめた。

空が幸せなら、あたしはそれでいいんだから。
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