この空の下で風は唄う
「空さん、あなたもし風さんがいなくなったらどうするのです?」

職員室。
子供の体には大きい椅子に座らされ、私はひとり真向かいの先生に聞かれた。

「風が……いなくなったら……」

私はそう呟き、黙った。
先生の言いたいことはわかる。もしなにかあって風がいなくなったら、今の私はなにもできないダメな人間になるだろう。

「あなたは少し、風さんに甘えすぎではありませんか。いけませんよ。風さんだっていつまでもあなたの傍にいてくれるわけではないのですよ」

わかっている。
全てわかっていることだ。
私は風がいなけりゃなにもできない役立たず。
いつか、みんな私を捨てて風だけを選ぶことだってあるはずだ。
自分でわかっていたことでも、他人に言われて初めて感じる悔しさと恐怖感。
私は、泣き出したい気持ちを懸命にこらえていた。


「……今日はもう帰っていいですよ」


トボトボと教室に戻ると、私の荷物を抱えて空が待っていた。

「大丈夫か……?空」
「……っ……風……」

私が風を見て思わず泣き出すと、風は優しく私を抱きしめた。

「雨が降りそうだよ。家に帰ろう」


風に手をひかれ、二人で家まで帰った。
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