星空の下で
俺と慶太郎は19歳になっていた。慶太郎!俺達なんとかのたれ死ぬ事なく生きていられたな。運良く恵まれていたんだ。そして何よりお前は努力をしていたよな。店を持つまでになって俺達はまた今までより少し広いマンションに引越しも出来た。そして俺と慶太郎は水樹さんに御礼を言いに挨拶に行く事にした。

『水樹さん!俺達はもう自分達で充分暮らしていけるようになりました!水樹さんのおかげでのたれ死ぬ事なく生きていられます!ありがとうございます!』

『水樹さん!俺は自分で稼げるようになりましたよ!ちゃん世話になった分借りはしっかり倍にして返します!ありがとうございました!』

『大輔!慶太郎!お前ら本当によく頑張ったじゃねーか。慶太郎!お前は本当に相変わらず生意気だな!お前にはもう借りはねーよ。借りを作るのが嫌いなんだろ。でもなお前はまだまだわかってねー!そうだ!お前ら10代最後だろ。ちゃんと大人になれるようちょっと修行行ってこいよ!たかだか1泊2日だ。気合い入れ直してもらって二十歳迎えて店をこれから上手く回していけるように願かけてこい!俺がお世話になった人だ。厳しいぞ。お前らもそこで少しは精神修行してこいよ!』

『はい!わかりました!』

『えー?マジ!行くのかよ!大輔!』

『慶太郎!お前には1番必要だ!行ってこい。たかだか1泊2日修行した所で強くなるものでもねーけどな。いい経験にはなる』

『わかりましたよ。行きますよ』

『おい!慶太郎行くぞ!起きろ!』

『ん?マジで行くのかよ。俺らそんな暇じゃねーじゃん。ねむてー』

『ここだな?なんか完全に隔離された山の中だ。あーあの頃を思い出すわ。自由なき鑑別所時代』

『大輔!ヤバイ!ここらへんコンビニ1つねーじゃん!俺帰りたい!』

『ここまで来たんだ!やるしかねーだろ!明日の昼過ぎまでの我慢だ。鑑別所に比べりゃマシだよ。あっ!あの!すいません!今日お世話になります渡部大輔です!よろしくお願いします!』

『高見慶太郎です。よろしくお願いします』

『よく来たな!中に入りなさい。とりあえず君たちが寝る部屋はここだから荷物を置いて本堂へ来なさい』

『はい!』

『はーい。つうかマジ嫌だ!何この狭い部屋?ベッドねーじゃん!』

『バカ!あるわけねーだろ!寺だぞ!慶太郎!修行にきたんだ!明日の昼までの我慢だ!早く行くぞ!』

『なんで?意味わかんねーよ。なんで俺がこんなとこで修行しなきゃいけないんだよ。コンビニがねーってありえねーだろ!つうか店一軒見当たらなかったぞ。酒も買ってきてねーよ!』

『うるせーよ!早く来い!鑑別所に入れられたと思え。半年も入ってたんだ。1泊ぐらいどうってことねーだろ』

『マジかよ。なんか罪を犯しましたっけ?諦めがつかねーんだけど』

俺達は水樹さんの紹介で精神修行としてなかば無理やりだが寺で修行した。19歳になってもみじも枯れ落ちたもう冬が近づく秋も終盤を迎えており山の中では朝晩は冷え込むような場所だった。そこで住職の説法と言う名の説教を本堂の床で正座をして聞き滝に打たれるよう言われて俺と慶太郎は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。水はかなり冷たいと言うより痛いと言う方が正解だ。こりゃ気合い入りますよ水樹先輩。俺達に素晴らしい経験をさせて頂きありがとうございます。10代最後の年今まで甘ったれていた根性を1泊2日で叩き直せるとは思いませんが貴重な体験である事に違いありません。滝に打たれ座禅を組み写経をして住職がお経を読んでいる間俺達も正座をして渡された勤行本に書かれた見慣れない文字をたどたどしく読みあげた。食事は質素な物でありまだまだ食べ盛りの俺達は満たされてはいなかったが食う事に困っていたあの頃を思い出し今どれほど俺達が恵まれた生活をさせてもらえているのか改めて感じる事が出来た。結城壮一郎さん!俺は来年二十歳になります。大人の仲間入りです。今ようやく光りが見えて生きる為に始めたホストですが仕事にもやりがいを感じてきています。慶太郎と協力して店を続けていけるだけ続けたいと思います。もうあなたの顔をわからないかも知れないっすね。俺だって随分変わりましたよ。身長だって174センチです。慶太郎の方が数センチ高いですけどたぶんあなたも俺達ぐらいの身長でしたよね?11歳の俺はあなたを見上げていましたが今なら同じぐらいの目線だと思います。ようやく大人になる俺ともう1度星空の下で語り合いましょうよ。今度は飲みながら語れますよ。俺は二十歳になるんだから堂々と飲めます。

『大輔!見て!ちょー星綺麗!さすが山の中だね!』

『本当だ。ヤバイな。都会の星空とは比べものにならねーじゃん。慶太郎!いい経験出来たな!』

『あー。キツイけどね。俺座禅でめっちゃ叩かれたっつうの。俺の集中力はハンパねーはずなんだけどな』

『お前が余計な事を考えてるからだろ。無心にならなきゃいけねーのに集中しようとすることがすでに無心から離れてんじゃねーのか?どうせ仕事の事を考えてたんだろ』

『そうっすね。無心って深いね。それにしても綺麗だ。俺青い空に向かっては語ってきたけど夜空には語りかけてこなかったな。こんな星空に語るのも悪くないね』

『あー。お前のもう1人の親父がきっと見てるよ。慶太郎!頑張ろうな』

『うん。そうですね』

綺麗な星空の下で親友慶太郎と語り合った10代最後の年はたくさんの光りが見えてきそうな気がしました。こんな星空をあなたにも見てほしいです。結城壮一郎さん!それでも今俺達が見ている夜空とあなたが見上げているかも知れない夜空は繋がっていますよね。
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