星空の下で
あー今年もあっという間に終わるじゃねーか。なんだか二十歳を過ぎてたからの1年がとてつもなく早く感じるのは気のせいか?10代の頃は早く大人になりたくて未成年と言う壁が重く俺達にのしかかっていたぞ。生きる事が大変だった時にはめちゃくちゃ1年が長くてまだ17歳かよ!あと3年も俺達生きられんのかって思う程1年を長く感じていたのにな。万引き少年の時なんて1日すら長く感じていたぐらいだ。

『慶太郎!千佳は元気か?』

『どうですかね。とりあえず明日は千佳の誕生日のお祝いをしようと思ってますけどそれが終わったら俺は別れてやろうと思ってます。バレンタインは俺ホストやらなきゃいけないでしょ。だから前日にお祝いだけはしておこうと思ってね。俺がいつまでも縛っていたらダメでしょ。幸せにしてやれねーのに』

『そうか。お前らが決める事だから俺が口出しできねーけど慶太郎!お前はそれでいいのか?』

『いいも何も幸せにしてやれねー男がいつまでも無駄に時間使わせたらかわいそうでしょ。千佳には幸せになって欲しいんだよ。俺みたいなクズじゃなくもっとまともな男が山程いるだろ。もう何も言うな!大輔!これがベストな選択なんだ』

『わかったよ』

慶太郎!お前は千佳がいなきゃダメだろう。もうお前が本気になる女なんてできねーんだろうな。まあこれも神の計らいに委ねるしかないんすかね。結城さん。

『大輔さん!おはようございます!』

『おはよう!翔太!今月も調子いいじゃねーか!うちのナンバーワンは!』

『はい!俺はこの店のナンバーワンを誰にも譲りませんよ!ずっと慶太郎さんを見て勉強してきましたからね!まだまだ慶太郎さんにはかなわないっすけどいつか超えてみせます!』

『お前は慶太郎のヘルプについてよく頑張ってたよな!先輩を観察して自分の武器にしていけるお前はすごいよ!伊織達はそのへんがまだわかってねーんだよな。今日も頑張ってくれよ!ヘルプは誰がいい?』

『はい!頑張ります!怜恩でお願いします!あいつにも稼ぐ楽しさを知って欲しいんで』

『わかった。じゃあ今日も頼むぞ!』

『はい!任せて下さい!』

俺がアルテミスのナンバーワンホスト翔太と会話を交わすのがこの日で最後になるだなんて思ってもいなかった。次の日翔太は無断欠勤をした。うちの店で働いて約2年と言う月日の中で無断欠勤なんて1度もないどころか遅刻すらないやつだった。最後に会話を交わした日も売り上げトップで上がり怜恩達と飯を食いに行くと笑顔で帰って行ったんだ。携帯の電源も入っておらず何度かけても繋がらないので俺は体調でも悪いか何かトラブルに巻き込まれたかのどちらかだと思い店を閉めて仕事を全て終わらせ早朝慶太郎を連れて店の寮として借りているマンションへと向かった。千佳と別れた慶太郎は引越したばかりで片付けが進んでおらず寮の合鍵の行方がわからないと言いやがったから仕方なく俺達は管理人を呼び出し翔太の部屋の鍵を借りたが俺は留守だろうと思っていた。おそらく変な女に捕まって女の所にでも行っているんだろうとな。俺の予想をはるかに超え鍵を開けた俺達が見たのは手首を数カ所切り首をつった翔太の姿だった。俺は慌てて慶太郎に救急車を呼ぶよう何度も言ったが慶太郎は呆然と立ち尽くしたままもう死んでいると冷静に言い放った。俺はまだわからないと思い救急車を呼び病院へ運んで貰ったが翔太は既に死亡していた。翔太の両親には借金がありその返済を翔太に頼っていたと翔太の両親から聞いた。翔太の部屋に残された遺書は2通あり両親と俺達へのものだった。返しても返しても終わらない借金返済に疲れもう頑張れないと書かれていた。俺達には迷惑をかけてすいませんと血のついた文字が翔太の苦しみを表していたが俺はまったく翔太の異変には気づけなかったんだ。今まで借金返済の為等とは言った事もなく慶太郎を見習って大学へ行きたいと希望を語っていたからぐらいだった。翔太の両親に俺達は泣きながらご迷惑をおかけしましたと挨拶をされ翔太は故郷へと帰っていった。慶太郎は香典と共に翔太の退職金だと言い翔太の両親に手渡した。アルバイトに退職金なんてねーよ!バカ!でもお前はそういう奴だよな慶太郎!俺達は生きなければならない。翔太!お前が追い詰められている事に気づいてやれず悪かったよ。俺らがそっちへ行く時はまた一緒に飲もうぜ!お前は本当にバカだ!お前がやった事は罪だぞ!親が泣いてるじゃねーか。二十歳になって親不孝してんじゃねーよ。翔太!また会おうな!
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