想い出、そばに(仮)



学校はうちから割と近い。

電車とかバスとか自転車とかを使わずに来れるところを選んだのだから、当然といえば当然だが。


「雪那、ここで待ってて」

「うん」


翔ちゃんは部活の朝練に私を連れて行く。
体育館のステージの右端は私の定位置だ。
そこに座ってバスケ部の練習風景を眺める。
ほとんど見えないけど、ボールの音とか、シューズの擦れる音とか、足音とか、聞いているのは結構好きだったりする。


「雪那ちゃん」

正面から、女の人の声。
うっすら見えるポニーテール。

「穂乃果先輩? おはようございます」

「お、正解。そんな雪那ちゃんにこれをあげましょう。新商品のお菓子なんだけどね、おいしいの」

「いいんですか、嬉しいです」

バスケ部マネージャーの穂乃果先輩は私の手に小さな包を乗せた。開けてみると、チョコレートの甘い香り。

「チョコ…抹茶だ!」

「さすが。鼻がいいわねー」

ゆっくり口に運ぶ。
おいしい。


「おいしいでしょ? 練習終わるまであと30分くらいあるし、ね」


穂乃果先輩が笑った。





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