ひとつ、屋根の下で
さっきまではあの毒舌男のせいでイライラして、傷付いて、ささくれ立っていた心が、今はそれが嘘のように、彼の言葉を思い出しても何も感じない。
「……ありがと……」
自信をくれて。
……そう零れた言葉は。
微かすぎて、夏の夜風に煽られ私と凌の間で溶けてしまって、凌の耳にはきっと、届かっただろうけど。
それでもいいと、思った。
どうしてそんなふうに思うのかは、自分でも分からなかったけど────。