ひとつ、屋根の下で


「あーあ、なんかこの子のせいで気分冷めちゃった。今日はもういいわ。……またね、雅季」


自分勝手にそう言って、女の人は音楽室を出ていった。


私と同じ制服を着てるから生徒には違いなのに、同年代とは思えない色気たっぷりの女の人だった。



「…………」



広い音楽室。


取り残された私と先輩の間には、沈黙が降りて。


「……あ、あのさ」


その沈黙を破ったのは、先輩の方だった。



黙って先輩に視線を合わせると、先輩は、バツが悪そうな顔をしていた。



……この学校の生徒なら知らない人はいないだろう、芸能科の王子、戸倉雅季先輩。



私の親友、雨宮千依の幼なじみで、恋人。


長かった幼なじみからやっと恋人になれたと千依から幸せそうな顔で報告されたのは、つい1週間前のことだ。


もともと女関係の噂の絶えなかった戸倉先輩。


千依という本命の彼女ができたからと言って、そう簡単に改心するものなのだろうかと、ひそかに心配していたんだけど。


……まさか、心を入れ替えるどころか現在進行形で浮気してるなんて!!



こんな奴が親友の彼氏なんて、許せない!!


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