ひとつ、屋根の下で
じわっ、と心に直接触れて溶けた凌の言葉。
こんなに余韻を残す言葉を、今まで誰かくれただろうか。
互いの掌で溶けあう体温が愛しい。
掌が触れているだけで、こんなに心が温かくなったことがあっただろうか。
「ありがとう……」
そばにいてほしいと、こんなにも祈るような想いに駆られたことが、あっただろうか。
もう、きっと目を逸らすことなんてできない。
もう、気付かないふりなんてできない。
先輩に恋して、あんなに傷付いたのに。
千依を失って、あんなに泣いたのに。
あんなにつらい思いをするくらいなら、恋なんてしなくていいって、思ったのに。