ひとつ、屋根の下で
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その日の帰り道。
凌は何も言わずに私の手を握ってくれた。
手をつないで帰る道は、来た時よりずっとキラキラして見えた。
傾き始めた太陽が照らすアスファルトが、綺麗な茜色に染まる。
涼やかに吹き抜けた風に思わず身震いすると、何も言わずに上着を貸してくれた。
そんな優しさに、心が私の身体を抜け出して自由に漂ってるんじゃないかと思うほど、フワフワと温かい気持ちに包まれて。
……私は。
久しぶりに感じたホンモノの幸せに浸っていたから、忘れていた。
私の心の奥に閉じ込めていた、モヤモヤとしたあの日の恐怖が、まだ何も解決してなかったことを────。