ひとつ、屋根の下で
微かな自分の足音さえ、なんだか嫌に大きく聞こえた。
もう振り返らない。
この前みたいになるのは嫌だ。
私は、ずんずん早足で歩を進めた。
やがて、細い路地から人通りの多い通りに出る。
身体を飲み込む溢れんばかりの人の気配に、たくさんの音に、思わずホッと息を吐き、緊張していた身体から力が抜けた。
……瞬間。
「え?」
広い通りに出たと同時に、視界に飛び込んできたのは。
……驚いたような表情をした、千依と雅季先輩だった。
なんで、こんなところにいるの?
頭の中をそんな疑問がよぎったけれど、その問いを口に出すより先に、ふたりの視線が私ではなく私の背後に注がれていることに気付いた。
「さ、沙波……、その人誰……!?」
どこかおびえたような千依の言葉に。
絶対振り向かない、そう決めていたはずなのに私は思わず振り返ってしまった。