ひとつ、屋根の下で


「やめ……っ」


「お前、なにしてんだよ!!」



思わず顔を背けたと同時に、荒い声が耳朶を打った。


その声が先輩のものだって、一瞬置いて気が付く。



あの、いつでもヘラヘラしてる先輩が、怒鳴るなんて。

驚いて顔を上げれば、私に迫ってきていた男が、先輩の怒声のおかげかくるりと踵を返し、逃げるように駆け出していくのが見えた。




「沙波!!」


身体を縛り付けていた恐怖がようやくほどけていったと同時に大きな安堵が私を襲い、へなへなと地面に座り込む。

そんな私に、悲痛な声で名前を呼んで千依が駆け寄ってきてくれた。



……千依に名前を呼ばれるの、いつ以来だろう。



「沙波、大丈夫?」


座り込んで俯いたままの私の頭上から、千依の優し気な声が降ってくる。


私はなんだか何も言葉にできなくて、頷いた。



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