ひとつ、屋根の下で


何度も泣きだしそうになるのを必死でこらえて、私はそう言った。



きっと、こんな人でもカメラの腕は本物だから。

それに、こんなことで負けちゃダメだ。

私程度の知名度ならほとんどないけれど、千依はよく悪意のない盗撮に悩んでいた。



「私のこと見かけたなら、こっそり撮るんじゃなくて声掛けてくれたらいいのにね」


なんて、困ったように笑っていた。



……そんな世界で生きていくと決めたんだ。




憎くて憎くてしかたないけれど、この人のおかげで輝けるモデルがたくさんいるんだと思うと、今回のことを他言することもできない。


私がこうして今までモデルでいられたのは、まぎれもなく北岡さんのおかげだ。


もし再び同じようなことがあれば、きっとそれなりの行動を起こさなくちゃいけないけど。


でも、今までモデルとしての私を成長させてくれたのは本当だから。


負けないよ。


絶対。





「……沙波」




心配そうな声色で私を呼んだ凌は、きっと気付いているんだろう。



私が、必死に強がっていたことなんて。



でもね。


……だから、頑張れるんだよ。


だから、強くあろうと思えるんだよ。


凌はきっと私のことを分かってくれてるって信じられるから。




凌は絶対私の手を離したりしないって、信じられるから。




だから私は今、前を向けるんだ。


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