ひとつ、屋根の下で
私から離れると、先輩はガラ、とドアを開け、きょろきょろと廊下に視線を投げる。
しかし、程無くして、訝しげな表情でくるりと私に視線を戻した。
「誰もいない」
「……じゃあ、気のせい……?」
私の言葉に、彼が、わからない、と首を振ったと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ俺先に戻るから」
「うん……」
もう、私の方を振り返ることもなく、彼は足早に教室を出ていく。
その、何の迷いもない後ろ姿を見送るのが、いつだって切ない。
─────毎週金曜日の昼休み。
もうほとんど使われなくなった旧化学室で、こうして彼と密会している。
週に1度しか会えない彼。
堂々とまわりに言うことなんかできない。