ひとつ、屋根の下で
「……俺に出来ることがあるなら、言ってよ。秋吾さんのことは、何もできなかったから」
「なにも、なんて」
瀬野くんがあの時北岡さんのことを連れてきてくれなかったらきっと、私はまだ終わらせることができなかった。
まだ一人で歩くことが怖いままだった。
……北岡さんがそういう人だって、知らないままだった。
今回のことで痛感したことがある。
……やっぱり、知らないっていちばん怖いんだってこと。
私は弱いから、傷付きたくなくていつだってつらいことには目を背けて、見たくないものは知らないふりをしてきたけれど。
それがいちばん、罪なんだってこと。
だから、瀬野くんにはすごく感謝してる。
今はまだ北岡さんから受けた傷は完全には消えていないけれど、きっといつかは塞がる傷だと思うから。
あのままだったら私は、傷つけられていることにすら気づいてなかった。
ただ漠然と恐怖を感じるだけだった。
……傷付くことはつらいけれど、立ち直るための一歩なんだ。