ひとつ、屋根の下で
「え?」
瀬野くん言葉の最後の方は、荷物を持って立ち上がりながらのセリフだったせいか聞きとりづらくて、私は思わず訊き返していたけれど、瀬野くんはしらっとするだけで教えてくれなかった。
「もう帰るんでしょ。早く行くよ」
「あ、うん……」
促されて部屋を出る。
店から外に出ると、冷たい風が、黒い夜空が私たちを包み込んだ。
「……じゃあ、色々ありがとう」
「べつに、俺は何にもしてないし。……じゃあ」
「うん。またね」
最後に微かに笑みを残して、瀬野くんは私に背中を向けて歩き出した。
ぼんやりその後ろ姿を見送って、私も方向を変え、歩き出す。
瀬野くんの言葉が、家に着くまでの間ずっと頭の中をぐるぐると回っていた。