ひとつ、屋根の下で
私があわあわしていることなんてふたりには関係ないようだ。
瀬野くんは、ふっと笑う。
「……もしそうだって言ったら、どうする?
彼氏でもないのに、俺に沙波に近づくなって言えるの?」
普段は呼ばないくせにここで沙波、なんて呼ぶのは反則だ。
瀬野くん、完全に凌のこと挑発してるよ。
そんなことをしたって、凌が私のことを好きだなんて言い返すわけないのに。
「……俺と沙波の関係に口出しされる筋合いないから。沙波、帰ろう」
「ちょ……っ」
ぐいっと手を引っ張られて、バタンと勢いよく助手席のドアが閉められた。
だから、ひとり車内に残された瀬野くんが。
「……隙なんか見せるからこうなるんだよ」
ぽつり。
「あーあ。いっそ早くくっついてくれてたら好きになんかならなかったかもしれないのにさ」
ぽつりと、ひとり深いため息と共にそんな言葉を吐き出していたことなんて、凌に連れられて必死に歩を進めていた私には、知る由もないことだった。