ひとつ、屋根の下で

「ちょ、凌、ストップストップ!!」


「……」


何度目かの呼びかけで、凌は漸く止まってくれた。


そしてくるりと私の方を振り返ると、掴んでいた私の手を一度離して、そして無言で自分が着ていたコートを着せてくる。



「えっ!?大丈夫だよ!これじゃ私より凌の方がよっぽど薄着……!」


寝巻のジャージ姿の凌。


こんな格好じゃ、凌、お風呂上がりだし間違いなく風邪ひいちゃうよ。


そう思って、肩から掛けられたコートを返そうともがいたけれど、それが叶うことはなくて。


気付いたら、凌にコートごとギュッと抱きしめられていた。



「……心配させんな、バカ」


耳朶をかすめた凌の吐息。


脳に直接響く、温かい声。



「……のぐ」


「なんで逃げた?……俺が沙波を追い詰めるようなことを言ったんだよな?だから」


「凌」


ギュッと、抱きしめ返した。


強く、強く、力いっぱい。


私の体温が、凌に伝わればいいと思った。

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