ひとつ、屋根の下で
「……ここじゃ凌、風邪ひいちゃうよ。……早く、帰ろう」
「……本当にあいつとはなんでもないんだよな?」
「え?瀬野くん?うん、なんでもないよ。……私のこと、心配してくれただけ」
あとで、こんなふうに別れちゃったこと、謝らなくちゃ。
お礼も言えなかったし。
私の言葉を信じてくれたのか、凌はゆっくりと身体を離した。
それに合わせて、私も凌を抱きしめていた腕の力を抜く。
ふわりと、凌の掌に自分の掌が触れた。
キュッと、優しい力で握られて、同時に心が温かく包まれた心地がした。
家に着いて、話すことより先に、リビングでふたり、ホットミルクを飲んだ。
身体の中からほかほかと温かさが沁み渡る。
「……俺の漫画が実話だって、そう言ってからだよな?沙波の様子がおかしくなったの」
コトン、とミルクの入ったマグカップをテーブルに置いて、向かいに座っていた凌がそう口を開いた。
私も凌に倣うようにして、持っていたマグカップを置く。
「……そう、だね」
「……実話だと、ダメだった?俺が、あんな恋愛かくの、ダメだった?」
凌の言葉に、ふるふると、首を横に振る。
「違う。違うの。……ショック、だったの」
「え」
凌は、驚いたように目を見開いた。
「ショック……?」
「うん、ショック、だった。……凌、恋愛なんてわかんないとか言ってたのに、こんなに素敵な恋をしてたんだって思ったら。
……凌に、こんなに愛された子がいたんだって思ったら」