ひとつ、屋根の下で

カメラの前で取れるポーズも自然に増えていって、カメラマンさんの指示にも今までより応えられるようになった。


撮る側がどんな私を撮りたいのか。


言葉だけじゃなく、汲み取れるようになったと思う。



北岡さんや瀬野くんが私のことを褒めてくれたのは、きっとそんな努力があったから。

勉強したからだ。


今まで、いかに薄っぺらい気持ちで仕事に向き合っていたのかを思い知ったような気がして、今までの自分が恥ずかしくなる。


今までだって自分のできることはしてきたつもりだった。


だけど、それはあくまでカメラの前での話。


カメラの前に立つ前の準備が私には不十分だったんだ。



……できることをしないままで、できないと嘆くなんて、実力不足だし、なにより。


いつか、瀬野くんに言われたように、覚悟が足りなかったんだろう。


失恋であんなに崩れるなんて。


今の私ならきっと、ちゃんと割り切れる。


私生活でどんなに悲しいことがあったって、カメラの前では絶対そんなそぶり見せないって、見せちゃいけないって、あの頃の私より分かるから。



……だから、凌。


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