ひとつ、屋根の下で

私は首を傾げた。


恋人ごっことか言ってるけど、具体的に何をするのか全然想像できない。


だって、私には先輩がいるし。


たとえただの「ごっこ」だとしても、恋人みたいにいちゃいちゃするなんて嫌だ。


それに、凌くんのことを好きな相手みたいに振る舞う自信なんてない。


凌くんはなぜか私が男慣れしていると思ってるようだけど、本気の本気でまともな恋愛なんてしたことない。


告白したいと思えるくらい好きになったのは先輩が初めてで。


キスだってハグだって、恋人同士の甘いやりとりだって。


私には、先輩とのそれしか知らないんだ。



「俺、よくわかんないんだよ。どういうとこでドキドキすんのかとか。でもやっぱ実際やってみてそうなるのはストーリー上でもそうなんだろ」



「……え、つまり?」



「つまり。おまえ、芸能科だろ?演技の授業とかもあんだろ?だから、俺の漫画のヒロインになったつもりで演じてみてほしいんだよ。

やっぱ主人公に感情移入して一緒に恋愛してるつもりになってほしいじゃん。
ちょっとくらいリアリティのある少年漫画の恋愛ものもアリだろ」



凌くんはそう言って、まっすぐに私を見つめてきた。


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