ひとつ、屋根の下で
その視線に、さっきまでのからかいの雰囲気はない。
本気なんだって分かった。
「でも、私……」
女優志望だけど。
オーディションに受かるなんておろか、授業でも褒められた試しがないくらい、目標に現実が追いついてない。
そんな私で、いいんだろうか。
不安になって凌くんを見上げると、彼はさっきまでの意地悪そうな笑いじゃなくて優しげに目を細めて、ふんわり、笑った。
不覚にも、整ったその笑顔にドキリと心臓が震える。
「……不安になんてならなくていい。自然に振る舞ってくれたらいいから」
「え……」
「俺がちゃんと、引っ張るって。……だから希美(のぞみ)は心配すんな」
希美?
一瞬ぽかんとして、だけどすぐに気付いた。
……主人公と三角関係にある、大人しい方の女の子の名前だ。
凌くんの笑顔が変わったのは、凌くん自身が主人公の男の子になりきってるから?
もう、始まってるってことなの……?