流れ星デイズ
裏切り。
この刃物のような言葉に、肩が震えた。
「ボーカルのヤツの素行が、すこぶる悪かったんだ。
特に女癖が最悪でね。
どんなに売れてなくても熱心なファンってのは必ずいるもんで、そいつはファンの子に手を出して……妊娠させちまった。
しかも、それをメンバーや事務所が知るよりも先にファンの間に広まって、それはもう大騒ぎだ。
『私もメンバーと関係を持ちました』って女が続々マスコミに流れて、あることないこと散らかされて、バンドの名前は一躍世間に広まったよ。
音楽とはかけ離れたところで有名になるなんて、こんな皮肉なことはないよな。
おかげでバンドは解散。
事実上、メンバーは全員、業界から追放された」
信号が青になって、車は走り出す。
「ひどい……」
私は、そうこぼさずにはいられなかった。
「ああ、ひどいな。
ボーカルは、ショウを、すべての信用を、裏切った。
そして、事務所もまたショウを裏切ったんだ。
それまでのアイツの努力を無視して、音楽を続けたいって望みも聞き入れず、ショウの首を切った。
でも、それがこの業界だ。
まあ、よくある話だな」
厳しい世界だっていうのは、漠然とではあるけれど分かっているつもりでいた。
それでも、そこで生きている人達はみんなまぶしくて、現実にこんな転落と隣り合わせでいるなんて、とても信じられなかった。
「それから、ショウはまさに死に物狂いでやってきた。
一度追放された人間がその世界でやり直すのは、並大抵のことじゃない。
一瞬でもメジャーを経験したそのプライドを捨てて、最下層をはいずり回って。
がむしゃらに努力して、失墜した信用を取り戻して、一人で人間関係を築き上げた。
何度も失敗を重ねて、やっと結成したのが『Sir.juke』なんだよ」