穢れた愛
長年 勤めた職場
常務とは名ばかりの
管轄に配属され
責任だけが問われる
役員達の印鑑が連なる
書類に目を通し
付属される資料を抱え
整頓仕切れない
山積みのディスク
薄い硝子で仕切られた
常務席のドアがノックされ
申し訳なさそうに
事務の女性が顔を出した
「すいません
常務にお電話が」
山越は携帯電話を開き
充電をしたまま
電源を入れ忘れていた事に
気づき
「廻してくれるかい」
殆ど 関る事のない
事務の女性に
柔らかな声を掛けたが
躊躇する女性は
戸惑いながら
言葉を付け足す
「青柳が 常務を出せと
言っているのですが
お繋ぎしていいものかと」
「青柳?」
「はい」
山越は顔を歪め
好意的に個人を連れ出した事を
悔いながら
「かまわないよ」
老眼鏡を外し
目頭を抑えた