穢れた愛


無音のまま
鳴る事のない
内線電話が点滅し
受話器に手を伸ばす


「山越だ」


腕時計の針は
10時を過ぎ
謝罪する青柳の言葉に
脱力感すら覚える


『申し訳ありません』


「随分 重役出勤だな
 偉くなったもんだ」


若干の嫌味も含め
鼻に掛けて笑う山越は
20代の若者に
大人げない態度を示す自分が
腹立たしくもなる


だが青柳の言葉は
感情もなく
淡々と告げられ
山越の表情から
笑みが消えた


『ロビーまで
 ご足労願います』


「どう言う事だ」


『お待ちしています』


切られた電話に
怒りを覚え
受話器を不機嫌に
電話機に戻し


山越は掻き乱される平常心に
不快な溜息を
吐き捨てた


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