サキヨミ。【BL】
偶然見えた時計の針へと、少しずつ近づいていく。
彼の歩みを止められないまま。
俺には見えただけで何もできない。
離れた場所からじゃ、彼の腕を掴んで止めたりなんてできない。
どうして今、彼の隣にいないんだろう。
「なあ、今日だけでいい。今だけでいい。他は信じてくれなくていいから!」
『こっちこそ、今だけは勘弁してくれ。今度何か信じてやるから』
面倒そうな口調で彼はそう言う。
今じゃなくちゃ意味が無いんだ。
少しだけでいい。
5分でもいいから、俺を信じてほしい。
もうすぐ、時は見えたものと重なってしまうだろう。
「お願いだ」
『あ、信号青なったから渡りますー』
だから大丈夫、と彼は明るく笑う。
彼は正しく交通ルールを守っている。
なのに
さっきから調子が変なんだ。
今まで見えたものの記憶が、少しずつ薄くなっていっている。
それは無くなるからだという事なんだろうか。
俺と彼の、これから先が。
嫌だ。
絶対に。
……だって、
「俺は君に、好きだと言うんだ!」
そう叫んだ。
まだ、以前に見たその光景は実現していない。
だからこんな所で終わってはいけないんだ。
電話の向こうから、小さく息をのむ音が聞こえてきた。
そして、轟音。