恋の華が舞う季節
「へぇ……、じゃ、借りようかな」

「はい! 是非、ゆっくり読んで下さいね」

 そう言って俺はその本を片手に持ち、受付のカウンターに向かう。

 そして手際よく君が、貸し出しカードを差し出した。

 俺はそこにまだ一回も借りていないカードに学年と、名前、借りた本、分類番号をいつもよりもキレイに書き、差し出した。

「……はい」

「貸し出し期限は一週間までですから、それまでに返してきてくださいね」


 君が最後に俺に言った言葉は、それだけ。

 相変わらず笑顔だ。

 笑う姿は本当に心をつかむ。

 また俺は、一瞬で君色に染められる。

 
* * *


「……あのさぁ……、いい加減、告れば?」

「無理。フラれる」

「じゃあ、あからさまに落ちこむなって」

「落ち込んでねーし。ほっとけ」

 本当は落ち込んでいる。

 たった一回のチャンスを、自ら失うなんて。

 ここ、笑っといた方がいい?

 情けねー。


 本当……ここまで自分が好きになってしまって、何もアピール出来ないなんて。

 後戻りも出来ねーし。

 
「陸さぁ……、余計なお世話かもしんねーけど。
 ……例のあの子について調べておいたぜ」

「え?!」

 思わず勢いよく、立ち上がる。


 
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