恋の華が舞う季節
「ま。
 遅からず、遠からず、翼がアクション起こさないと、どこぞのキモい奴に取られてしまうつーこと」

 
 何かが俺の中で起こる。

 翼の一言で。

 もしかして、のせられてるだけなのかもな。

 ……でも、君を他の誰かの者になるなんて堪えられねーよ。

 
 俺は廊下をぶっちぎるようにして、走る。

 担任が怒って何か言ってたみたいだけど、悪いけど、そんな悠長に構えられる暇ねーから。


 放課後の廊下は、静まり返っていた。

 
 2年1組――


 俺の足はそこでピタリと止まる。

 
 教室の扉越しに君が居る。

 ……うわ。

 凄くキレイだ。

 あの楽器は、多分、フルートだろう。

 軽快に君の指使いで変わる音に、俺はなんとなく聴き入ってしまった。

 この窓と、俺と君の距離はこれくらいなんだろうか。

 そして君のどこかに俺の存在はあるのだろうか。

 凄く遠い距離なんじゃないか?

 手の届かない、決して好きになっても無駄な距離。


『小野千紗都って子、噂によると……結構モテるみたいだぜ』


 翼の言葉が脳裏によぎる。


――弱気になるな!

 今までずっと、好きだった。それだけは、自信を持って言える。



 
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