トビラの向こう側
確かに駅前にアンブレラという名前の建物があった。
車から降りて店内に入ると40歳ぐらいの男性がお酒を作っていた。
その男性に近づいて行く。
『昼間、電話をくれた人だね』
この人にはまだ名前も告げてないのに。
『夜の営業時間にはほとんど常連のお客さんしか来ないんだよ』
なるほど、俺が誰だか直ぐに分かったわけだ。
店内は落ち着いた雰囲気で居心地のいい空間に感じた。
カウンターに座るように言われて腰をおろした。
『葵だと分かったら連れて帰りたいのですが』
『それは…無理かもしれないね』
『無理とはどういう事ですか?
』
『汐里ちゃんは記憶喪失なんだよ』
記憶喪失?
『こっちでは、しおりって呼ばれてるんですか?』