トビラの向こう側
二度目の失踪
私は、ゆっくりと目を開けた。
「気がついたか」
彼は目を覚ました私に気づくとベッドの傍らに座って額に手をふれた。
触れた手が冷たくて心地いい。
「汐里もう大丈夫か?」
「うん」
痛かった頭痛は消えていたけど…
まだ頭がボーとしていて少し混乱していた。
「汐里、ちょっと親父の会社に呼ばれてて行かないとなんだ。」
汐里……彼は目覚めてから私をずっとそう呼んでいる。
この一年みんなから呼ばれていた名前。
でも…今の私は違和感を感じてしまう。
だって…私はもう汐里ではなく。
葵だから。
亡くなった両親の事も駿とつき合っていた事も彼の前からいなくなった事も全て思い出した。