トビラの向こう側
「名前なんか呼んだって無駄だよ。
さっき帰ったみたいだしね」
「中にいる伯父さんには聞こえない。
それに…ここは裏口で従業員しか通らない…だから、大人しくしてろよ」
「イヤ!!…たか…とう…さん」
顔を背けて彼の口づけを回避する。
「お取り込み中、悪いんだけど、そいつ俺の彼女だから放してやってくれないかな」
高遠さん!?
まだ両手首を掴まれたままの私は振り向く事ができずにいた。
智也さんは驚いたみたいで私の腕を掴んだまま立ち尽くしていた。
「聞こえなかったのか。
放せって言ってるんだ…!」
さっきとは違って、恐ろしく低い冷たい声が聞こえてきて…。
智也さんは放るように私の手を放した。
私は力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。