トビラの向こう側
「汐里ちゃんが悪いんだよ。
高遠駿を好きになんか、なるから」
「汐里は俺を選んだんだ。
お前に渡すつもりはないから諦めろ」
「……」
高遠さんは私のそばまで来た。
恐くて顔を上げられない。
「立てるか?」
体の震えが止まらず声が出ない。
高遠さんは私を立たせると頬を濡らしていた涙を指で拭った。
涙の跡を消すように口づけされた。
「なんとなく心配になって戻ってみればお前、何やってるんだ」
責めるような苛立ちまぎれの言葉が高遠さんから出た。
止まっていた涙が、また目の奥からあふれてきた。